泥水

「でいすい」と読むのはなぜでしょう?

『泥水』と書けば、普通は「どろみず」と読みます。「どろみず」で辞書を引くと「泥が多くまじった水」と書いてあり、「でいすい」で引くと「どろみずのこと」と書いてあります。
つまり、辞書的には同じ意味なのですが、石油鉱業界では、その中身はまったく違っています。

「どろみず」というのは、辞書に書かれているように土や砂などを含んで濁った状態の水のことを言いますが、「でいすい」というのは、ある目的をもって人工的に作られたものです。
その中にはいろいろな化学薬品が含まれているので、一種の化学製品ということができます。

泥水は、どんなときに使われるのでしょう?

泥水というのは、もともとは石油を掘り出す業界すなわち石油鉱業界の専門用語です。
泥水は、石油・天然ガス・地熱など、地下に存在するエネルギー資源を探すための深い井戸を掘るときには不可欠のもので、もちろん、この分野では今でも使われていますが、そのほかに温泉や水井戸を掘るときや、土木・建設関係(たとえば、建築の基礎工事やシールド工事など)でも使われるようになりました。
地面を深く掘るときになくてはならないものなのです。

泥水について少し詳しく。

では、石油掘削、すなわち石油を見つけるために地面を掘る場合を例にして説明します。

石油が地面の下、つまり地球の内部深くにあることは、ご存知と思います。
地面の下にある洞窟のような大きな空間に溜まっているとお考えではないでしょうか?
実際は地下に石油が溜まる空洞はありません。
地下深くにある岩石のように硬くなっている土砂、その岩石の小さな、ほとんど目に見えないほどの隙間隙間や割れ目に溜まっています。

実はその辺にある普通の石にも隙間や亀裂がたくさんあり、虫眼鏡や顕微鏡で見ると確認できます。もちろん、岩石の種類によって大きさや数は違うし、なかには全くないのもあります。

 

石油は、プランクトンなど生物の死骸が海底に沈み、そこに土砂などが積もって一緒に地中深く沈んでいき、高い圧力と地温そして気の遠くなるような長い年月をかけてできたものなのですが、地下深くにある土砂などは押し固められて岩石のように硬くなっています。
つまり、石油のもとになる生物の死骸などは岩石の隙間に閉じ込められたようになって、そこで石油に変化するというわけです。

そんな小さな隙間の石油を取り出すのは大変なのでは?

まず、石油は液体だということ。そして、隙間は必ずしも閉じたものばかりではなく、つながっているものがある。つまり、石油はつながっている隙間を伝って岩石の中を移動することができます。
たとえば、ガラスのコップに乾いた砂をぎっしり入れて横から見ると、一見隙間なく詰まっているように見えますが、実際には砂の粒と粒の間には隙間があり、上から水をそそぐと水は砂に染み込んでいきます。
しかし、水は砂の粒の中に入ったのではなく、粒と粒の隙間に入ったわけですので、隙間がつながっている限り水はコップの底に向かって移動していき、最後には底に溜まります。

 

もしも途中に粘土のような隙間のない土を挟むと、水はその上で止まってしまい底まで行けません。

地下では温度が高く、大きな圧力がかかっているので、その影響で土砂の粒と粒がくっついたり、押しつぶされたり、あるいは隙間に細かい粒子が入り込んで詰まったりして、つながっている隙間は少なくなりますが、完全になくなるとは限らないので、石油は自分の周囲にそんな隙間があればそれを伝って移動するというわけです。

 

地球の内部には、時代時代によっていろいろな性質の土砂が積もって地層を形成していますが、地表に近い地層ほど圧力が低いので、石油は出来たところより圧力の低い地表、すなわち上に向かって移動するのです。

そして、もし、それぞれの地層の隙間が全部つながっていたら、最終的に地表に達して蒸発したり、化学変化したりして消えてしまいます。

 

幸いなことに必ずしも隙間が地上までつながっているとは限りません。途中に隙間や割れ目がない、たとえば粘土層のような地層があるとそれ以上移動できなくなってしまいますので、先ほどの粘土層を挟んで砂を入れたガラスコップの水のように、石油は行場を失ってその下の地層に溜まり始めるのです。

もしもその地層が隙間の多い、例えば砂で出来た岩石で、お椀を伏せたような山の形になっていると、たくさんの石油が溜まるというわけです。
ちなみに専門的には、石油が溜まっている岩石を「貯留岩」、石油を生成した岩石を「根源岩」、山形の地層を「背斜構造」といいます。

 

石油を地上に取り出すには?

つまり、まず根源岩があること、その上に貯留岩があってそこまで隙間がつながっていること、その上に石油を通さない層があること、そしてその周辺の地質構造が背斜構造であることが、石油にとっては重要なのです。
これが1つでも欠ければ、石油は期待できないのですが、地下にこれだけの条件を備えているところは多くありません。
だからこそ、石油は貴重で、産地も限られているのです。

 

では運良く石油があるとしてそれを地上に取り出すにはどうすればよいのでしょう?

地下に石油があるかどうかを地上から直接調べることは出来ないので、先ず背斜構造がありそうなところを探すことから始まります。
いろいろな方法で調査して、この下に背斜構造がありそうだなと見当を付ければ、その場所に向かって、地上から井戸を掘ります。
井戸といっても数千mから深いところでは6千mと、普通の水井戸よりはるかに深い井戸です。

 

石油の井戸のことを普通、『坑井 (こうせい) 』 と呼ぶのですが、これを掘る機械を掘削機(リグ)といいます。

リグは真中、方に強力なモーターを備えており、ドリルや錐きりで木材や鉄板に穴をあけるように、回転力を利用して地面に穴(井戸)をあけてゆきます。

このモーターに鉄管を接続し、さらにその先端にはビットと呼ばれるものを接続すると、巨大な錐が出来上がります。
錐の先端に相当するビットは写真のように特殊な構造をしており、効率よく地面を掘っていくようになっています。モーターを回転させると、ビットも回転して土や石を砕きながら地面に穴をあけ地中に潜ってゆきます。

 

泥水の働き

ところで、ドリルで木材や鉄板に穴をあける時、木や鉄の屑が出ます。
地面を掘ると、もちろんビットが砕いた土や石の削り屑(掘り屑)が出ますが、これをうまく穴から取り除かないと、貯まった掘り屑と鉄管との摩擦でモーターに負荷がかかり、掘れなくなってしまうのです。
では、どのようにして取り除くのか、ここで登場するのが、泥水なのです。
ビットが削った掘り屑を地上に運ぶというのが泥水の第一の役目です。
泥水を貯めた容器から、ポンプを使って錐の心棒に当たる鉄管の中に泥水を送ると、泥水は鉄管の中を通ってビットの先端から井戸の中に噴出し、掘り屑とともに鉄管と井戸の間を通って地上に戻ってきます。

ここで、フィルターを使って掘り屑を分離し、泥水は容器に戻し再びビットに送るというわけです。
最初はきれいだった泥水に土が混ざり、まさに「どろみず」状態になることから「泥水」という字を充てているのです。

 

泥水にはもう1つ重要な役目があります。
ドリルで穴を開けるとき、ドリルの刃が熱くなるのと同様に、回転するビットも地面を掘っていくうちに摩擦熱で熱くなります。熱くなるとビットの性能が鈍るので、ビットの冷却も泥水の重要な役目です。

ただ、それだけならただの水でもいいのです。わざわざ化学薬品を使っているのには大切な理由があります。
実際に水井戸などの浅い井戸なら、水だけで掘ることは可能ですが、石油は前述のように、何千mも深い井戸を掘る場合は、掘っていくに従って、いろいろなトラブルが発生するのです。
地下深くなるほど、地温と圧力が上がります。
また、地面の中も必ずしも硬いところばかりではなく、軟弱な箇所や、亀裂がある箇所などをビットが通過すると、せっかく掘ったところが崩壊してしまったり、泥水が亀裂を通って逃げてしまったりということも起こるのです。
さらに、もしガスなどの高圧の流体があれば、地上に吹き上げるということも起こりうるのです、それらの問題を解決するために、化学薬品が入っているのです。

すなわち、温度が上がっても機能を失わない薬品、圧力上昇には泥水の比重を上げるため密度の高い材料、井戸の崩壊に対しては壁を保護する崩壊防止剤、亀裂にはそれを埋める材料などなど・・・、様々な薬品や材料が使われており、ここが「泥水」が「どろみず」はなく、「でいすい」たる所以です。また、こうした問題を解決しながらビットを石油のあるところまで到達させるのが「でいすい」の働きなのです。

 

ここで、ちょっと泥水の働きと流れをおさらいしてみましょう。
ポンプによって坑井に送り込まれた泥水は、ビットを冷却し、掘り屑を運搬し、地層圧などから坑井を守るとともに、いろいろな地下情報(地下資源の有無、地質年代、地層の性状など)を地上へもたらします。
地上へ戻って来た泥水は、スクリーン(ふるい)を通過することで、掘り屑を吐き出し、場合によっては新しい薬品・材料を加えられて若返って、再び地下へと旅立って行くのです。

私たちの体にたとえると、血液には赤血球・白血球・血小板などのほか、いろいろな酵素やミネラルなど生理活性物質が溶け込んでいるので、検査すれば体の中のいろんな情報を得ることができる。
心臓から全身に送り出されて体の各組織に酸素や栄養分を供給し、体温を調節し、細菌と闘い、怪我をしたら凝固して余分な出血を防ぎ、老廃物を体内から運び出し、さらに肺で炭酸ガスを吐き出し、酸素を溶かしてリフレッシュされ再び心臓から体内に供給される・・・まさに泥水と同じと言えます。

また、掘削中、地下の状態は刻々と変わっていくので、それに対応できる最適な泥水を地下に送る必要があります。
したがって、地下から上がってくる泥水の性状を監視し、トラブルが起こらないように対応していかなければなりません。
そのために石油掘削の現場には、泥水を知り尽くしたエンジニアが常についていて、掘削機を操作する人と一緒に仕事をしているのです。
そうしたチームワークが私たちのエネルギーを支えているのです。

泥水関連技術

石油の掘削は深度が深くなるほどより高温高圧になり、思わぬトラブルに遭遇することもあって、泥水にとっては非常に厳しい条件下でも正常に機能を発揮することが求められます。
時には200℃を超える場合もあり、それに耐えうる新たな泥水材料を開発することも必要で、我々は研究を積み重ね、泥水も日々進歩しているのです。

ところで、井戸を掘り終わったあとの泥水は、いろんな化学薬品が含まれており、さらに加えた薬品以外に地中に存在していたいろいろな物質を含んでいます。それらの中には有害なものがあるかもしれないので、掘削終了後はきちんと処理をして、廃棄する必要がありますが、そのための処理技術の開発も重要です。

廃泥処理技術のページ

 

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